権威の下で行動している人は、良心の基準に違反した行動を実行するが、その人が道徳感覚を喪失すると言っては誤りになる。むしろ、道徳感覚の焦点がまるっきりちがってくると言うべきだ。

自分の行動について道徳的感情で反応しなくなる。むしろ道徳的な配慮は、権威が自分に対して抱いている期待にどれだけ上手に応えるか、という配慮のほうに移行してしまう。戦争中の兵士は、村落を爆撃することの善悪は考えない。村を破壊しても、恥ずかしいとも後ろめたいとも思わない。

むしろ自分に与えられた任務をどれだけ上手にこなしたかに応じて、誇りや恥を感じるようになる。(ミルグラム『服従の心理』山形浩生訳)