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植草一秀氏の視点ー(2014/01/13) 脱原発実現には小異を残して大同につく対応不可欠 メディアが細川護煕(もりひろ)元首相の都知事選立候補情報の報道を手控えている。 細川氏選出の流れが生じることを警戒しているのである。 1月19日の名護市長選と2月9日の東京都知事選。 さらに2月23日実施と見られる山口県知事選の三つの首長選挙は、安倍政権の命運を分ける選挙になる可能性がある。 とりわけ、安倍政権は都知事選が原発政策の是非を問う選挙になることを警戒している。 東京都知事選で安倍政権与党の自公は舛添要一氏支持の方針を固めた。 自民党が実施した世論調査で、舛添氏支持がもっとも多かったことを受けた対応である。 オリンピック利権を安倍政権が完全に掌握するには、安倍政権がコントロールできる知事が誕生することが必要である。 安倍首相は都知事選候補者について、 1.絶対に勝てる人 2.行政経験のある人 3.できれば女性 の三条件を提示したと伝えられている。 このなかの、とりわけ第一の条件を勘案して舛添氏支持の方針が示されたわけである。 ところが、元首相の細川護煕(もりひろ)氏が出馬するとなると、情勢が一変する。 細川氏が単純に立候補するというなら、大きな脅威にはならないかも知れないが、細川氏が脱原発を掲げて立候補するとなると事情は一変する。 ベースにあるのは、原発に対する主権者の判断だ。 2011年3月11日に東電福島第一原発が大事故を引き起こした。 国際原子力事象評価尺度でレベル7という、人類史上最悪レベルの放射能事故を引き起こした。 1号機から4号機までのすべての原子炉が爆発、核燃料が溶融するメルトダウンが生じ、核燃料が鋼鉄製の圧力容器、格納容器を溶かし、外部に露出してしまうメルトスルーが発生した。 東日本が危うく全滅する事故が発生したのである。 この事故の処理費用には10兆円以上の費用が発生する。 原子力損害賠償法は損害賠償責任を事業者である東電に課しているから、東電債務超過に陥り、法的整理されなければならない状況にある。 ところが、安倍政権は税金で東電を救済し、その東電原発再稼働を認める方向に路線を定めている。 福島原発事故の再発を完全に封じる対応策は取られていない。 いつ同じような事故が発生してもおかしくない状況が放置されている。 こうした現実に対して、日本の主権者が原発ゼロを求めるのは当然のことだ。 原発推進勢力は原発ゼロにすれば電気料金が上がると主張するが、原発を利用し事故を引き起こせば、そのコストをはるかに上回るコストが発生することを無視した暴論である。 主権者の多数は原発ゼロ、脱原発を求めている。 この主権者の声を無視して安倍政権が暴走を続けている。 安倍政権は全国規模の国政選挙が今後2年半もの長期にわたって実施されないことを悪用して、主権者無視の政策を推進しているのである。 このタイミングで都知事選が実施されることになり、元首相の細川氏が出馬して脱原発を訴えれば、大きな反響を生むのは当然のことである。 さらに、安倍首相のおひざ元の山口県でも知事選が実施されることになった。 山口でも原発建設が大きな争点になっており、脱原発を主張する有力な候補者が出現すれば、山口県知事選の最大の争点も原発になる。 東京都では脱原発を掲げて宇都宮健児氏が出馬を表明している。 憲法、TPP、消費税、辺野古の各問題についても、主権者の意思を代弁する方針を提示しており、主権者を代表する資格を有する優良な候補者である。 日本社会を弱肉強食社会に変質させた小泉純一郎氏などが背後に控える細川護煕氏よりも宇都宮健児氏を支援したいと考える主権者が多数存在することは想像に難くない。 しかし、主権者国民は、ここで、戦略的思考をする必要がある。 いま、主権者国民にとってもっとも大切なことは何かを考えることだ。 主義主張を貫いて宇都宮氏を支持する結果として舛添氏の当選を許す可能性を考慮しなければならない。 脱原発の投票が分断されれば、舛添氏が有利になる。 宇都宮氏、細川氏の支持票を一本化する結果、舛添氏の当選を阻むことができる可能性との比較が必要である。 小平が「白いネコでも黒いネコでもネズミを捕まえるネコが良いネコだ」と述べたというが、白いネコでも黒いネコでも脱原発を明確に主張する候補は大切に考えるべきではないか。 いま何よりも大事なことは、「ストップ安倍政権」を実現することだ。 暴走する安倍政権にブレーキをかける。 そのためには、よろしくない人物が背後にうごめいていることなどには、目をつぶる柔軟な姿勢も必要なのだ。 これを戦略的発想と呼ぶ。 都知事の国政に与える影響には限界がある。 憲法、TPP、消費税、辺野古の各問題は、主権者にとって重大な問題であるが、都知事が国政に影響を及ぼせる程度は知れている。 しかし、原発問題だけは都知事に一定の影響力がある。 なぜなら、東京都が東電の大株主であるからだ。 東電の行動に対して、東京都は一定の影響力を有している。 また、東京都民の原発政策に対する判断は、国レベルの原発政策に強い影響力を有する。 原発政策に対する考え方の相違は、利権重視か日本の未来重視かの相違に基いている。 原子力ムラは年間2兆円規模の産業である。 この利権に群がる人々はかたくなに原発維持の方針を示す。 しかし、こうした利権に関わりのない市民の大多数は、安全の保証のない原発は排除するべきだと考えている。 日本は世界最大の地震国のひとつであり、地震帯、活断層地帯の上に原発を擁することは、自殺行為であることを正しく見抜いている。 原発を放棄して自然エネルギーにシフトすることを強く求めている。 細川氏の裏に誰がいようと、この点には変わりがない。 小泉純一郎氏が原発ゼロを唱え始めたことは、遅れたバスに飛び乗った行動で、遅きに失してはいるが、そのこと自体が間違ったことというわけではない。 原発ゼロ陣営に小泉純一郎氏が転向したことを否定する必要はない。 主権者が原発ゼロを求め、安倍政権の暴走を止めることを最優先に考えるなら、「小異を残して大同につき」、都知事選への対応を考えるべきだ。 主権者が原発政策について細川氏と談判し、責任ある政策姿勢の確約と引き換えに細川氏支持を決め、細川氏の当選を実現させれば、細川都政誕生時には、一定の影響力を行使し得ることになる。 これもまた、戦略的思考の一面である。 大事なことは、選挙と現実の政治を、単なる「自己満足の対象」にしないことだ。 いくら高邁な理想を掲げたところで、現実の実権を確保できなければ、犬の遠吠えにしかならない。 現実の果実として刈り取れるものはしっかり刈り取る、地に足をつけた対応を心掛けてゆかなければ、私たちの日々の現実を改善してゆくことはできない。 残念ながら、現状は安倍晋三王国が構築されてしまっている。 これから2年半もの長期にわたり、この安倍政権王国が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)してしまうリスクが目の前に広がっているのだ。 その惨事を回避するには、少しでも状況を変える可能性があるなら、その可能性を確実なものにする戦術を取ることが必要であると思う。 思いもかけず、東京都と山口県で相次いで知事選が実施されることになった。 これを奇貨として、日本政治を軌道修正するために活用するのが賢明な道である。 細川氏の出馬を全面的に肯定できなくとも、細川氏が当選して、安倍政権原発推進政策に多少なりともくさびを打ち込むことができるなら、安倍政権が支持する舛添要一氏が当選して、原発推進政策にまったく軌道修正がくわえられないことよりは、はるかに得るものは多いと考える。 この柔軟な思考が求められている。 この情勢の中で、細川氏の脱原発政策を否定し、より純度の高い原発ゼロ政策を主張し、宇都宮氏支持を強化して脱原発票の分断をもたらし、結果として舛添氏の当選を援護することになるなら、その行動は、舛添当選のための行動という解釈も生まれてきてしまうのである。 都知事選の主要争点が脱原発になることは東京都民として歓迎するべきことだ。 そして、その場合には、原発推進原発反対とが正面から向き合うよう、それぞれの陣営の候補者が一本化され、一騎打ちとなることが望ましい。 この意味で、宇都宮健児氏陣営は細川氏陣営と協議して、候補者の一本化に向けて協議を進めるべきである。