<原発時代は終わったのではないか エネルギー政策を揺さぶる5.21大飯判決>

原発時代は終わったのではないか
エネルギー政策を揺さぶる5.21大飯判決>
日経ビジネス 2014年06月03日 村沢義久)

「5.21衝撃の判決
 歴史的な出来事が起こった。2014年5月21日、福井地裁は、関西電力大飯原発3、4号機について、運転してはならない、という命令を下したのである。日本のエネルギー政策を根本から揺さぶるほどの大きな判決である。関西電力はこの判決を不服として翌22日に控訴した。しかし、仮に、上級審で判決が覆ることがあったとしても、かなり時間がかかるだろう。  筆者は、太陽光発電を基幹電源として推進しようとしている。温暖化対策のためのCO2削減が主たる目的だ。
 一方、原発に関しては「慎重派」。すなわち、長期的には廃止するべきだが、即時撤廃は現実的でないという考えだ。具体的に言えば、2030年時点で、日本の総発電量の10%程度を原発で賄うのが適正なレベルだと想定している。そのためには、現存する50基のうち、常時10基程度を稼働させる必要がある。新規建設はしない。
 これが筆者の基本構想だったのだが、今回の命令で状況は大きく変わった。すこし、先走って考えてみれば、これで、日本の原発が終わるかも知れないのである。」

「安全性の欠陥は「人権侵害の可能性」
 「具体的危険性が万が一でもあれば、差し止めが認められるのは当然」。今回の福井地裁の判決文は、原発慎重派の筆者から見ても、かなり思い切った表現になっていると感じる。だから、推進派の人たちにとっては、衝撃的なものだったはずだ。
 福島第一原発事故を踏まえ、樋口英明裁判長は「生存を基礎とする人格権は憲法上の権利であり、法分野において最高の価値を持つ」と述べ、差し止めの判断基準として「新規制基準への適否ではなく、福島事故のような事態を招く具体的な危険性があるか」を挙げた。新基準とは独立して、司法の判断がなされたこと、しかも、その根拠を「人権侵害の可能性」としたことが画期的である。
 そのため、仮に、規制委員会が「新基準に適合している」と判断した場合でも、それが、そのまま再稼働のお墨付きとはならなくなった。
 また、使用済み核燃料を貯蔵するプールについても、樋口裁判長は福島第一原発事故で建屋の壁が吹き飛ぶなどして、周辺住民の避難が計画されたことを指摘。「使用済み核燃料も原子炉格納容器と同様に堅固な施設によって囲われてこそ初めて万全の措置と言える」と、関電の対応の不十分さを批判した。
 この批判は、全国のほとんどの原発に当てはまるので、この判決の影響は、大飯だけではなく、他の多くの原発にも及ぶはずだ。
 実際、原発差し止め裁判を支援する弁護士らで作る「脱原発弁護団全国連絡会」は5月22日、「判決は、大飯原発3、4号機に限らず、原発が抱える本質的な危険性を認めた」などとする見解を示した。」

「川内、今夏の稼働は困難に
 大飯判決の影響はすでに表れている。川内原発の操業停止を求めて国などと裁判で争っている原告団らが「意義は極めて大きい」とする声明を発表した。川内原発を巡っては県内外のおよそ2200人の原告団が操業停止を求めて国や九州電力と裁判で争っている。
 川内原発は、原子力規制委員会の審査が最も進んでおり、今年夏の終わりごろの再稼働を目指しているのだが、運転差し止めを訴えて裁判を起こしている「原発なくそう!九州川内訴訟」の森雅美弁護団長は「原発の危険性を指摘した判決の論理は川内原発にも十分当てはまる」と期待を示した。」

原発時代の終わりの始まりか
 筆者は、川内の再稼働は秋からさらに延期される可能性があると見る。具体的には、再稼働に向けた意見募集や地元自治体の同意を得る段階で、大飯判決の影響が表面化すると想定している。しかも、夏の電力ピークを過ぎてしまえば、再稼働の必要性も薄れる。
 影響は川内だけに留まらない。四国電力の千葉昭社長は5月28日の定例会見で、安全審査が進められている伊方原発3号機の再稼働について、基準地震動に関する説明が終了していないことから「当初の願望より相当後ろにずれ込まざる得ない」との認識を示した。
 川内も「その次」と目される伊方も「延期やむなし」とのムードが広がっている印象だ。大飯判決の影響は非常に深く幅広い。
 さらには、福島事故が収束からほど遠い現実も影を落とす。際限なく増える汚染水は制御されておらず、汚染廃棄物の処分場決定も難航している。国民が福島の状況に対してある程度の安堵感を持つまでは再稼働への機運は盛り上がらないのではないか。しかも、そういう時期が数年内に訪れるとは考えにくい。
 日本の原発の歴史が終わるのか。あるいは、すでに終わっているのかも知れない。」

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http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140530/265767/?ST=smart