生きている。 他人がいて、自分が生きていることが分かるんだ。


5月18日

 竜の棲むといわれるチベットの湖、ナムツォにいる。

 小高い山に登る。風に吹かれている。

人工物の何もない世界。

見渡す限りの荒涼に誰もいない。

歩いている自分だけの世界。

いったい生きているのか死んでいるのか。

ここはどこなのか?

ふと気がつくと、ここが死後の世界でもおかしくいないと。

誰もいない。

何もない。

何も聴こえない。


1時間もかからずに上れる丘のようなところだが、ナムツォ自体が標高4500 mはある。

 生まれてきてから、今までで最も高いところにいる。

 頂上でチベット人がツルハシをふるう。

やっと自分以外の人に出会えた。

生きている。

他人がいて、自分が生きていることが分かるんだ。

そう思うと、ありがとう、本当にありがとうって思った。

 12人のチベット人と一緒に工事をする。

何を作ってるのかさっぱり分からんが。

ツルハシ、スコップ、バールで岩を砕き、運ぶ。

 少しの作業時間なのに手がパンパンにはれ上がった。

 気圧の低いのと関係があるのかな?

じゃあまたねと別れる。

ピースサインで送ってくれた。

 ここ、ナムツォのトイレは地獄谷。

宿の後方、岩山の斜面の岩と岩の裂け目に板が渡してある。

そこをヨイッショとまたいで用を足す。

 近づくと地獄谷からハエがわんさかと湧いて出てくる。

 みんなで岸辺で石拾いをする。

 自分の見つけた石がどんなに素晴らしいかを語り合う。

 30過ぎた男が3人で・・・。

馬鹿馬鹿しくも愛すべき時間だ。

 湖面がきらきらと輝く。

 うれしいなぁ。

 チベット人に「ありがとうはチベット語では?」と尋ねると「トチヂ」と教えてくれた。



 都知事と記憶する。

 19日


 ランドクルーザーでラサに戻る。

査証が心配。明日、公安外事局に行こう。


 20日

 青島で入国時に取ったビザは本来30日であるらしい。

旅行社に問い合わせても、ガイドブックを調べてもそうらしい。

 ヤバい。期限切れだ。

 ラサ公安に行き、確かめる。なんか知らないが我が査証は2ヶ月に
なっていた。

 不思議だ。

 アキさんと飯を食い、話し込む。

ラサの公安がビザは大丈夫って言うてたけど、大丈夫かなぁと話すと、そんなことを心配してもどうにもならんと言われる。

30日のはずのビザが60日に勝手になっていて、ラッキー!ありがとう、それだけじゃんと。

確かに心配事は頭の中だけで発生しているだけで、現実とは何の関係もにない。



 彼は日本でも北海道から沖縄まで放浪していて、世界も渡り歩いてい
る。

 楽器が上手で、「楽しむこと」が行動の指針。

 「バイクで先頭を走るやつと後ろを走るやつは違う。時にはリスクを背負って先頭を走ってみようぜ!」

 アキさんはいう。

 海外を放浪してると現実から逃避してるように言われるけど、走って
る人もいる。

 リスクを負ってないように見えて、負ってる(と考えている)人もい
る。

 みんなと旅をしてきたけど、そろそろまた一人になるときかなぁって
感じる。

 ゴルムド行きのバスチケットを買う。

 自分が焦点を当ててるものが現実に見え、そこにあるのが自分の感情。

 アキさんは、周囲にたくさんの球を投げつけ、投げかけ、誰がどう
打ってくるのかを試して、同時に試されている人だ。





 22日

 いつものおばちゃんの店で朝食。

みんなと別れてまた一人になる。握手をして別れる。

 この湧き上がる感情はどこから来るのか? 

そんなことは知らん。

 寝台バス。

寝ているだけで移動できるからいいかなと思ったが、顔の直ぐ横、左右両方に隣りの乗客の足がある。

かなり臭い。

 途中、対向車が道の下の川に突っ込み、杭のように刺さる。

無傷ではいられないだろう。南無。。。

 マジですごい。

はぁ、無事に着けますように。

 23日

 13時、バスが目の前に転がっている。

道路工事の路肩に気づかずに転落したらしい。

 窓ガラスも割れて、走行不能。

お陰で我がバスも停車して、20時間ぶりに排尿できた。

 途中、公安の検問があり、迷彩服にサングラスの2人が乗り込んでき
た。

黒いサングラスの向こうから乗客を眺める。

何気ない素振り。

 本を読む格好でチラリと覗く。

2人が行ってしまって、ドライバーのおっさんが親指を立てていう。

 「よかったな、韓国人!」

 日本人じゃっちゅーに。。

 20 時 蘭州に着く。

 5000m バスで越えた。

 寒かった。

しっこが漏れそうで死ぬかと思った。

生まれてきて今迄でイチバン怖かった。