もう怒らないって、あのときに思ったのに、またやってしまったよ。





体を湯につかってお風呂をいただくのは、私をふくめて大勢の人々のためである。体も心もきれいになって、内も外もさっぱり清らかになる


朝から天然掛け流しの熱い温泉に入ることは、この上ない幸せ。


390円の至福。


常連さんとの会話もまた嬉しい。


髪を洗い、髭を剃りながら、今は亡き祖父が洗面所に貼っていた文言を思い出す。



「沐浴身体 当願衆生 心身無垢 内外高潔」




今日は、町内の米寿のお祝いを配る。




自転車に乗ると湯上りの肌に、午前の風が涼しい。


娘の自転車には変速機が付いていて、少しの坂なら楽々だ。



創建はいつの頃だか分からないという氏神様にお参りする。



米寿のお祝いの報告と、今度の集まりのご挨拶をした。





八幡宮、この地域をお守りくださっている神様。


石段の上がる途中に、客人神社が両側に二対、おらっしゃる。



客人 「まろうど」と読むそうだ。





八幡様に比すると、それはそれは小さなお社だけども何故かそれはそれは尊い気に満ちている。



縁結びのご利益と。



今度の集まり、『音の旅』にご縁のある方々が集まってくださることに感謝しています。



ありがとうございます。





石段を下り、また自転車の風に吹かれて、緩やかな坂を下ると、街道の札の辻に観音堂がある。


今まではお参りしたことはなかったが、自転車を止めて、手を合わせた。


さてさて、これからお祝いに周ろうというときに、交差点に停まっていた白と黒の車から警官が降りてきた。


まさかこちらに用があるとは思わなかったから、自転車に乗ろうとすると、


「ちょっとすみません」


???


「その自転車はお宅のですか?」



「防犯登録は?」



「お住まいは?」



「職業は?」




バチンと音を立てて、感情が噴出するのが分かったが、分かっただけ。



自転車が娘のものであること、


この地で生まれて、この地で育ち、この地をこよなく愛していること、


今は敬老の日を前に、米寿のお祝いをして周る前に神仏にお参りした後であること、



ドバーッと一気呵成にまくし立ててしまった。



「こちらも市民の安全を守るために・・・」とその若い警官が言う。



それはもっともだし、分からないでもない。



今までのスピード違反、一時停止違反、一方通行違反、それはこちらが悪い。


署名を集めて議会に出したアレやコレ。


たくさんの仲間と一緒に県庁に申し入れたアレやコレ。


波打ち際でのアレやコレ。


そんな鬱憤はその若い警官には一切関係ないのだが、ドバーッと出た。


さらには、もしかして賽銭泥棒と思ったか、この野郎!!

サンダル履きがいけないのか?

Tシャツが汚いか?


噴出した後に、



「感情的になりました。すみません。」


一応、仲直りの握手をして別れたものの、自転車のペダルを踏みながら、SLのように頭から湯気が出る。


あぁ、また怒ってしまった。


もう怒らないって、あのときに思ったのに。






交番を通り過ぎて、またやっちまったなぁと反省した。



あの住職に「怒っちゃダメ」って、諭されたのにと思っていると、そのお坊さんが目の前に托鉢姿で現れた。


鉢に100円をチリンと入れさせて頂く。



ムニャムニャ・・・。



ありがたいお経を頂く。



今あった話をまたドバーッと話すと、


「私もこの前、そこで捕まったんですよ、作務衣を着てて坊主だとは分からなかったみたいで・・・」



職業は?と訊かれたから、「無職」と答えたそうだ。


「あなた、無職ってか・・・住職でしょ!」とツッコミを入れたくなった。



「そしたら、警官の態度がコロッと変わってね、怒りましたよ、私も」



お布施を頂いて暮らしている宗教者が無職で何が悪い?


・・・から始まって、この度のオリンピック開催決定、福島の汚染水漏れ、etc


「今度、飲みましょうね」




「次の法話のネタにしよーっと、あははははは」



禅宗のこのカラリとした、笑いに変えてしまう快活さがたまらなく好きだ。



100円のお布施じゃ少なかったかなぁ。



やっぱ怒らないようにしよっと、できるだけ。


結局、それを受け取るのも自分だもん。



駅前交番のN巡査、ごめんなさい。










この住職のお話はこんな感じ。