上海、一泊分と同じ値段のビールを飲みながら、夜景を見た。 美しい空虚。寧波の女の子。

上海、一泊分と同じ値段のビールを飲みながら、夜景を見た。

美しい空虚。

何故だか2元で飲んでた北京の安宿の瓶ビールが恋しくなる。


4 月28 日

 朝食、4 人で餃子を食べに行く。

 下町の中華料理は、アメリカ人の口に合うのか?

 好きなものをオーダーしてシェアしようというが、量は足りてるの
か?

 そんな余計なことばかりが頭をよぎって、ぐるぐる回る。

 みんなで一緒に同じ道を歩こうってのは、大変だ。

 日本人3 人で蘇州へ行こうという話になっていたが、寧波に行くこと
にした。

蘇州に行きたくないわけでもなければ、寧波に行きたいわけでもない。

今はひとりになりたい。

一人だと淋しくなって、集団になると一人になりたくなる。

 今からどこに行くのだろう。

 上海駅にて寧波行きの切符を買う。

並んで並んで、やっと順番がきた。

窓口に行くと、あっちに行けと言われる。昼飯休憩だと。

信じられない。これも中国。


 駅前の食堂で定食とビール。26元。

 ホームレスが何度も何度も店内にやってきて、客が残したものをきれ
いに片付けてゆく。

 一人でいると楽に感じる。

旅をしている緊張感。一人で全てやってゆかなくてはいけない緊張感。

 窓口で衝動的に広州行きの切符も買ってしまった。

何をやってるんだ?

 成都行をキャンセルか?

手元にあるのは、広州行きの切符と成都行きの切符。

身体はひとつ。


退票(払い戻し)窓口に行くとまたまたすごい行列。 

 うんざり。
 待合室に行く。

 部屋には肢体不自由の人がたくさんいて、お金やモノを列車待ちの人
から施してもらおうとしている。

 旅なんてできる人は、恵まれてる。

 何が得で何が損なの?

 なんでこんなことを感じるのか?

 上海に入ってから、ずっと心に波が立つ。

 なんで旅なんてしてるんだろう。

 なんでそんなことを思うんだろう。

 寧波行きの列車に乗り込む。

 4 月29 日

 寧波には深夜に着いた。

 宿はどうしようかなぁと心配していたが、難なく決まった。

 中国では外国人が宿泊できるとことは限られていると聴いていたが、
そんなこともないようだ。

 駅前の「寧波南駅旅社」 単人房(シングルルーム)40 元 ローカル価格だろう。

 包子と紹興酒を買ってきて、ベッドに横たわる。 


 TVも有る部屋。

 中国では、誰も道路の信号を守らない。これは良くないことである。
 5 月から道路交通法が施行されます・・・という内容の報道だった。



 9:20 に目覚める。

 行動開始。
バスを乗り継いで、阿育王寺に。アショカ王の寺という意
味らしい。

 鉄道を敷いた人、バスを運転する人、いろんな人がいないとここには
来ることができない。

 舎利殿の木材は、周防国山口県)から運ばれてきたものであるとい
う。


荘厳な寺院の装飾、山口から運ばれた木材。

門前にはゴミを食べる乞食。






 鑑真像に手を合わせる。コンニチワ。

 悟入菩提但観諸法空無我  石碑に刻まれた文字。


 出会う僧侶の佇まい。なんと優しい顔をしておられるのだろう。

 お寺の中で精進料理を頂く。

 天童寺、道元さんが修行したお寺。助楽縁随という額の文字。

 南駅で上海に戻る切符を買う。

 宿の受付の人が部屋に来る。

日本のことに興味があるようだ。

 彼女は黄さんという二十歳前後の女の子。

 寧波の街を案内してくれるという。

 お互いに言葉がまったく通じない。
彼女は英語が全く話せない。

 こちらは中国語は99%理解できない。

 屋台街、繁華街、ネットカフェ、ゲームセンター…地元の人にしか分
からない、ガイドブックに載らない街の姿を見せてくれた。

 バスを乗り継いで、あちこちへ行く。

 その度に食事代、交通費を払おうとするが、断られる。全て払ってく
れる。

 どこまでそれに甘えていいものか?


4 月30 日


 黄さんは、結局1元も受け取ってはくれなかった。

言葉が待ったく通じないが、外国人を精一杯もてなしてくれていることは間違いない。


 友人とシェアして住んでいるという部屋にも案内してくれた。

 とても広いとはいえない、ベッドを2つ置けばもう一杯の部屋。服や
炊飯器が床に置かれている。

 いつもは自炊なのだろう。

 とても慎ましやかな生活の様子。

 支払ってくれた食事代や交通費は彼女の何時間分の労働の対価なのだ
ろうか?

上海のカフェの生ビール、寧波の黄さん。



 なにもいうことができない。

 今朝は雨、寧波を地元の人の目線で見せてもらった。

 何もお返しすることができない。

 折鶴を折った。憶えているもんだね、折り方。

 青い鳥は結局、自分の家にいるんだから、旅なんてするのはやめた
ら?って言ってくれた人がいる。

 こんな想いをするのも、こんな出会いも旅だから。

 なんで旅なんてしてるんだろう?問いがすでに答え。


 南駅旅社をチェックアウト。

 黄さんに、折鶴を渡す。

 持ち物の中でなんとか使ってもらえそうな日本の財布とタイのポーチ
をお礼に渡す。

 福を呼び込んでくれますように。ありがとう。

 上海行きの列車に乗る。

 売り子が七色に光るボールペンを売りに何度も往復する。

 誰がそんなもの買うのか?と心の中で笑っていたら、かなりの人が
買っている。

 七色に光らせるためには部屋を真っ暗にしなければならないわけで、
そんなところでは字なんて書けないよ。




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あれから10年経った。

中国はどう変わったのか?

寧波の黄さんは、スマホを持ってユニクロを着ているのだろうか?

結婚して、家族を持っているだろうか。



あの日、一日本当にお世話になりました。

ありがとう。

ちょっと恋しそうになってた寧波でした、今思えば。