人生も生きてること自体が生きている意味なのかもしれない。 香港→広州→昆明




フィリピン人の女の子、マルちゃんとメインストリートのマックで待
ち合わせ。

 Tomさんと3人で朝食。

 Tomさんはカナダに帰る日。

空港行きのバスへ乗り込むのを見送る。

 「またどこかで会いましょう」

 「カナダにおいでよ、部屋はいつも空いてるからさ」

 ハグして別れる。

ありがとうございます。

一緒に遊んでくれて、香港は楽しい時間がたくさんになりました。

また会いたいなぁと思った。

 さーて、マルちゃんと2人になっちゃった…。

 彼女は従妹に会いに行くという。一緒に来てと。

 暇なので、もちろんOK!

 近所のYOSHINOYA で待ち合わせ。

今度はおじさんに会うと…。

ん?

さっきは、従妹って言ってなかったっけ?まぁ、いっか。


 旺角のビルの2 階の一室に通される。

 なぁ〜んかヤな予感。

おじさんという人物はものすごく愛想がよく終始笑っている。

よく冷えたコーラを冷蔵庫から出してくれる。

 2本出してくれたコーラのうちの片方を彼が飲む。

 初めて会った人からもらった飲み物、食べ物を口にした途端、意識が
ふら〜なんてケースはよくあるので、ちょいと警戒。

そんなことを気にする自分は冷静だなぁって心の中で笑っている。

 「知ってる?今、香港の埠頭に豪華客船が停泊してるの。僕はその船のカジノのディーラーなのさ。」

 そういいながら、テクニックを披露しよう!とテーブルに布を広げは
じめる。

 ブラックジャックの変則版みたいなルールを説明しながら、巧みに
カードを切る。

 「これはヒミツなんだ。誰にも言うなよ」

 と前置きしてトランプの配り方、符牒の見せ方、注意の逸らせ方なん
ぞを丁寧に教えてくれた。

 俺はキミに手の内を教えてやった、仲間だよって感じに。

 彼の手さばきは実際、確かにすごい。


 カードを渡されて「適当にシャッフルしてみな」と言われる。

 念入りに切って渡す。

 無作為に4枚を裏返しにテーブルに置く。

 「キミが引くカードは Aだよ」と彼。

 そんなアホなぁ〜とめくると ホントに A !!

「実は4枚とも Aなんだよ」テーブルの上の4枚はすべてA・・・。


 ウウウ・・・本物のカジノディーラーかぁ?

 「ところで、マイフレンド。いい儲け話があるんだが協力してくれないか?」


出ました、常套文句、マイフレンド。

 おじさんは、目の色を変え、身を乗り出して言う。

 「昨夜、ブルネイ人のMr. ブリックが$62000 儲けたんだ。

もちろん、俺が協力したからさ。

後で謝礼として10%もらう約束だったんだ。

でも、やつがくれたのは、たったの$200! 

腹が立つ話だろ? 

そこでだ、俺たち2人で組んでそいつから金を巻き上げようぜ。」

 目がテンになった。

 「100%勝てる方法は、こうだ」

彼は指と目線を使って、次の数字を伝える方法を教えてくれた。

ん〜、14年もカジノディーラーをやってて、それかぁ?

 隣り座っているマルちゃんは

 「おもしろそうじゃん、やってみようよ!!」

 ん?マルちゃん、キミ?

 おっちゃんとグル?

  仲間?

マジで? これまでの楽しい時間は何?仕込み?

 途端にマルちゃんの顔がルパンを騙すフジコちゃんにみえてきた。

 ってか、この誘い方・・・

 地球の歩き方 とかに いっつも書いてある・・・

 「危険なカードギャンブル詐欺」の手口、そのまんまじゃ〜〜〜
ん!!!!!!


 そんなんを思ってると、ノックの音が

 「ハァ〜イ、コンニチワ。私はブルネイから来た ブリックといいま
す。よろしく♪」

 ぎゃはははははははは!!!

心の中で大爆笑した。

ブルネイのブリックさんは、ちょび髭のコメディアンのような格好。

 芝居じゃねぇ〜〜か!!

100%必勝法を教え終わるのを待ってたかのように、ブリックさんがドアから登場というタイミング!

マンガじゃないか。

 「わりぃけど、これからマカオに行ってくるから失礼するわぁ」

おっさんとブリックさん、マルちゃんも必死でゲームに誘ってきたが、
半ば強引に部屋を出て、サイナラ。


 あぁ〜、これがあの有名な詐欺の手口なんやねぇ。

 ってか、マルちゃんさぁ。。。昨日から一緒でさぁ、そんな俺をひっかけようとするかなぁ、普通・・・。

 手が込んでるなぁ。

マカオにでも行きましょうかね、マジで。






ちょいと凹みつつ、マカオに渡る。

カジノに行く気にもならず、街を歩いてまた香港に戻る。

部屋に帰るとまた酔っ払ったジョニーがパンツ一丁で迎えてくれた。

おかえりぃ〜と、酒やたばこをくれた。

ボロ儲けのワナを張ってる連中よりも、ルームメイトのジョニーは気の良いじいさんだ。

僕はむしろこっちでありたい。




 ジョニーさぁ、今日はこんなことがあったんだよぉ〜!って話そうと
思ったときには、

 ヘベレケのジョニーはもうベッドの上で寝息を立ててた。

 ひとりでベッドの上でビールを飲みながら、一つ気が付いた。

 今日は、息子の誕生日だった。


 6月6日

 朝8時、ガーデンホステル302号室のドアを閉めて出る。

ジョニー、サヨナラ。

 美麗都ビルの前はもうメインストリート。

81 番のバスに乗り、駅まで出る。

軽く朝食を済ませ、残った香港ドルを米ドルに換える。

余った香港ドルで日本へ電話を掛け、留守番電話にメッセージを入れておく。

 チベットで壊れてしまったデジカメの修理が目的でやってきた香港
だったが、Tomさんに出会えてよかった。

なんだかんだしてるうちに、デジカメは勝手に直っていた。

気圧の関係ってことでオッケー??


越境して、香港から中国へ帰る。不思議な感覚だ。

上水、深セン…だんだんと窓から見える風景が変ってゆく。
なんだか安心する。

 中国側に入ると、当然そこにあってしかるべきものがそこにない。
当たり前のようにそこにない。

 香港から広州へ列車が着く東駅に、両替の為の銀行がまず、ない。

駅の構内を歩いていると「どこへ向かうのか?」と尋ねてくる男がいる。
 

昆明へ向かおうと思う」と答えると、「駅は東駅じゃなくて、広州駅
だ」と教えてくれる。

 あらまぁ、親切じゃん、って思ったら、「今日は広州駅行きのバスも地下鉄も休みだ。

俺はタクシードライバーだ。乗ってけよ」と。

 そういうことかいな・・・。

世界中どこにでもある手口にはもう騙されません。

しかし、よく騙そうとする人が現れる。

どんなカルマの解消なのか。

 地下鉄はもちろん普通に元気に稼動していて、広州駅へ行く。

駅構内に入るのでさえ、行列。

並んで待たなくてはいかん。さすが中国。

 昆明行きの寝台列車に乗り込む。

重たいバックパックを荷棚に上げるのを周囲のみんなが手伝ってくれる。これもさすが中国。ありがとう。

結構、嫌いじゃないよ、中国。面白い。でかいし、広いし。様々やし。

むしろこの猥雑な感じが好きだ。

日本ではないもん、こんなことあんなこと。


 また大移動開始。中国の列車には給湯器が各車両に付いている。

お茶、カップ麺に湯を注いぐため。

 実に便利。

 次の街へ、次の街へ。

 6 月7 日

 列車の中で眠る。

 揺れても平気。

よく眠れる。9 時半までぐっすり寝ていた。

 中国の列車泊で初めての下段のベッドだが、なんの心配もない。

 夢に娘が出てくる。家を出るときに手紙をくれた。

 「とと、おかえり」拙い字で書いてある。

 本当は いってらっしゃい と書きたかったんだろう。

 ジーンズのポケットにずっと入れている。

 窓の外には秋吉台のカルスト台地のような景色が続いている。

 石林といわれる奇岩の風景だろう。

 アケミちゃんにもらった小説『すべてがFになる』を読み終えた。

宿での出会いも好きだけど、一人になって本を読む移動時間も好き。

バスや列車の移動って、そのまま乗ってるだけで目的を果たしてる感じが好きだ。

人生も生きてること自体が生きている意味なのかもしれない。

 芸術、音楽、小説・・・役に立つか立たないか?

 そんなことどうでもいいもんほど、楽しい。

 旅も日常も。

 昆明に着いて、駅前で話しかけられる。

 客引きかと無視しようかと思ってたが、バスの乗り方を教えてくれる
親切な人だった。

 ありがとう。

疑ってごめんなさい。

旅の中での緊張感。

近寄って来る人の善意と悪意の識別。


 茶花飯店に宿を取る。

 清潔なドミトリーでうれしい。

 広州のYHで出会ったスミモトくんと再会する。