挙手をして、多数決の結果、バスは北、つまりハノイへ向かうことに なった。  残念だが、南へ行く君らとはここでお別れだ。

7日

 シンゴが部屋を訪ねてきた。

 「次はどこに行くの?」

 「ラオスに行こうと思ってるけど」と答える。

 「一緒に行かない?」仲間からのお誘いは断れない。

 漫画『沈黙の艦隊』も読み終わりそうだし…。

 レセプションでバスのチケットの価格を調べ、25ドルでラオスの首
ビエンチャン行のバスチケットを予約する。

 ネットカフェに行く。

 奥さんからもメール。

8月にバリ島で会いましょうとのこと。

 楽園で家族再会だね。

 『沈黙の艦隊』を読み終える。

 「独立せよ!」とのこと。

 全ての主義、教義、慣習、正義といわれるものからの独立。

 外に外にでなく、内に内に。 

 川辺を散歩してて、友見ちゃんに出会う。シンゴと3人でメシ。



 8日

 ここフエの街では連日連夜、仲間が集まる。

 昨夜は万華鏡でLEDライトを覗き込みながら、そこに何が見えるの
か?ってことで遊んでいた。

ロールシャッハみたいなもん。

 「ドアが見える。歩いて近寄ってみる。ドアのノブに手を掛けたよ。向こうに見えるのは・・・わぁ〜〜!!」

 暇すぎる旅人、なんてアホな遊びだ。

 口琴、シンギングボウルも使って、視覚、聴覚、いろんな角度から感
覚を突っついた。

 旅先では相手が誰かなんて、どうでもいい。

 北京の同じドミの隣のベッドになったアケミ。

 上海の地下鉄を出て、雨宿りで隣にいたトシオ。

 口琴とシンギングボウルを教えてくれたアキさん。

 チベットでキマって一人で踊ってたチハルちゃん。

 いろんなやつがいる。

みんな今頃、どこで何してるんかなぁ?

 ここ、フエでもあほばっか。

 出身、学歴、性別、年齢・・・そんな肩書きなんてどうでもいい旅で
の仲間。

 「これからこいつとうまくやっていかないと困るなぁ」

 「この人と知り合いになれば、仕事に結びつく」

 そんな打算はぜんぜんない出会いの中で、素の人間と人間が出会う。

 気が合うか合わないか、つきあうかつきあわないか、くだらんことは
考えずに好き勝手に決めればいい。

 こっちも素のままだと、不思議と相手も素のままのやつが来る。

 逆にこっちが気負ってると、向こうもそうだ。

 やっぱ他人は自分を写す鏡やなぁ。

 いろんなやつが、いろんな自分を見せてくれる。

 こっちも写して写して、反射しまくりじゃ!

 自分探しなんて考え込んでると、自分がどっか行っちゃうわぁ。

 自分無くしの方が自分が見えるなんてオモロいのぉ。

 昼寝して、みんなでごはん、

 その後、とっておきの屋台アイスクリーム屋を紹介する。

 3日前にナオちゃんから教わったフエの甘味処だ。

 ヨーグルトやオレンジジュースを凍らせただけのもんだが、シンプル
でかなり美味い!

 んで、また宿に帰り、部屋に集合。

 くだらん心理ゲームや旅ネタで話は尽きない。

 フエはとても過ごしやすいところだった。

 人とつるむのが好きだなぁとつくづく思った。

 あぁ、楽しかった。

 フエ、終了。

 明日は、ラオスに向かおーっと♪

 9日

 Gショックのアラームは一応セットして眠るが、その音に起こされる
ことはない。

 鳴る寸前に目覚め、鳴るのを心の中でカウントして待つ。

 5・4・3・2・1 ピピピ・・・。

 シャーッ!

 Gショックに勝った!

 今日は大移動になるはずだ。

 7時に大通りまで迎えに来たバンに乗り、宿で知り合ったスコット、
シンゴとラオスに向かう。

 イミグレを通るが荷物チェックもなにもなく、難なく通過。拍子抜け
する。

 15 時に国境の街、サバナケットに着く。メコン川の流れを見ながら
ビールを飲む。

 今日はここで一泊。宿泊費込みの25 ドルの移動だから、どんな宿に泊まらされるのかと思ったら、意外にまとも。

 エアコン、シャワーが部屋の中にある。

枕元にはなぜか「ナンバーワン」と書いたコンドームが山のように置いてある。

 レセプションには、従業員が2人いるが我ら宿泊客が行っても、こっ
ちも向かない。

 まぁ、普通のことだ。

 見ると写りの悪いTVでファミコンをしている。

スーファミでもプレステでも、ましてやプレステ2では、もちろんない。

 初代ファミコンだ。

 ソフトはおそらく中国製やな。

「3IN1」とかなんとか記され、4つのゲームが1つのカセットに入っている。

 グラディウススーパーマリオスト2・・・。ものすごいテンコ盛
や。

 今は全くゲームはしないが、こちらはモロにファミコン世代。

 ちょっと貸してみぃ。

 ラオス人からコントローラーを受け取り、マリオの裏技講座。

従業員一同、大喜び。宿で出会った日本人も交えてファミコン大ブレイク。

 グラディウスは ↑↑↓↓←→←→BAで無敵モードになる。

 拍手喝さい!

 日本人のチカラをこんな風に発揮するのもありかぁ?

昔取った杵柄なのだ。




 10 日

スコットはサバナケットに滞在するってことで、サイナラ。

 シンゴと二人で8時に宿を出る。

ホテルの兄ちゃんがトゥクトゥクでバスターミナルまで送ってくれる。

 ここからはローカルバスに乗る。

 日本の支援で動いてますって車。

 日本のお陰で運営されてますって学校。

 いろんな日の丸の看板を見ながら、バスは進む。

 日本、すげぇ。

 この道は山賊が出るって話も聴いてたけど、なんもない。

 それどころか本格的になんもない。

一面の緑。

時々休憩に止まるところでもラオス人に囲まれることはない。

 これがベトナムだったら、物売りに囲まれたり、ポケットに手を突っ
込まれたりするのに・・・。

 バスで移動できるほどの距離なのに、なんでこうも違うんだろう?

 国民性とかってどういう風に形成されるんだろう・・・と3 秒くらい
考えたけど、どうでもいいので忘れた。

 とにかく首都のビエンチャンに近づくが、とにかく何にもない。

 18 時、ビエンチャンの宿を取る。

 シンゴと同じ部屋で宿代をシェアすることにする。

 街を少し歩くと5 分と経たないうちにプッシャーに声を掛けられる。

 なんか分からんけど、ラオスの首都におる。




 11日

 シンゴと部屋をシェアしている。

 セミダブルのベッドに男2人が寝ているが、ちっとも変でない。

エアコンもほどほどに効いて、シャワーもある2ドルの部屋。

 ラオスの首都、しかもその中心部の宿。

 8時に目覚めて、街を歩き廻るが頭はちっとも目覚めていない。

メコン川を眺めることができるところまで歩くと、そこは『海の家』みたいな屋台になってる。

 ラオスのビール、ビアラオを飲みながら、メコンの流れを見つめて一
日を過ごす。

 シンゴと二人、どちらからともなく歌を歌う。

 ドナドナドーナードォーナー♪

 子牛を乗せーてー♪

 荷馬車が揺れるぅー♪

 輪唱にはもってこいのこの歌をずっと歌い続ける。

 何もしない。
 何もしない。
 何もしない。

 だが、何もしようとしないことと、何もしないことは違う。

 何かをしようとする自分を止めることと、何もしないのは違う。

 どこか奥の方で「動こう」という声がする。

 晩御飯を食べに行った店でイーグルスの『ホテルカリフォルニア』が
掛かっていた。

 ここを出よう。

 イーグルスで決めた。

 キメられた。


 12日

 シャワーを浴び、宿の玄関まで出る。

明け方、雨が降ったみたいだ。

 朝市まで歩く。

タートダムまで歩き、写真を撮る。

 こうでもしないとラオスに来たってことをきっと忘れてしまう。

 ビエンチャン中央郵便局まで行き、日本の友人への手紙を送る。

 恐ろしく遅い速度のネットカフェで辛抱強くメールを送る。

 メコン川を見ながら、メシ。

 宿への帰り道にプッシャーに出会う。

 ”Good ? "
 " So good !! "
 クオリティもあんたの笑顔もラオスも最高だよ、全く。

 思考は現実化するって、よくいうが本当か?

 現実が思考させてるのか?思考したもんがこの現実なのか?

 今、この現実が夢であり、思考そのもんなんや。

 18 時半に宿に迎えにくるはずの車は、19 時になってもこない。

 宿の前の道は首都ビエンチャンの幹線道路だが、大雨のせいで腰まで
浸かるほどの雨。

 すげえや、道路が川になってる。

 結局、20 時に出発。

 45 人乗りのバスにざっと55 人は乗ってる。

 昨夜、シンゴと夜の街を尾崎豊の歌を叫ぶように歌いながら、歩いた
ことはこのまんまずっと憶えておこう。

 経験したいと心から願ったことを経験してる。

 想ったからこの現実なのか、現実から想ってるのか…。

 そんなことはもうどうでもよくなってきた。




 13 日

 ビエンチャンからフエに戻るバスに乗っている。

 西洋人の旅行者が多く、オリエンタルな顔はチラホラ。

 微かにエアコンの効いたバスは悪路を進む。

 午前3 時、ここはどこだろうか?どこか分からないが、休憩らしい。
みんながバスを降りている。

 いわゆるドライブインで、軽い食事とトイレ休憩。

 ここはどこか分からないが、上を見れば星が見える。

 たくさんの人の中にいるが、一人だ。

 一人だが淋しくはない。

 むしろ一人でいるから星を見ることができる。

 一人でいても、独りじゃない。

 夜空を見上げることができることが、すごくすごくうれしい。

 夜空を見上げることができる自分が好きだ。

 午前8 時半、ラオスのイミグレーションに入る。

 11 時にやっと荷物検査を終え、ベトナムに再入国する。

 ラオスに入るときと違い、ベトナム入国には厳重な検査があった。

 バスの隅から隅まで、バッグの中まで調べられた。

 ベトナムのイミグレで延々と待つなかで、他のバスに乗っていた日本
人と話す。

 彼はこれからベトナム→中国と旅をするらしい。

 バッグの底にあった『地球の歩き方 中国』を差し出して

 「あげるよ、使って。もういらんから」と言う。

 「いいんですか?俺はあげるものないっすよ?こんな高いもの、もらえませんよ」

 「もう中国から出たし、本、重たいからもらってくれた方が助かる。
使ってもらう方が本も喜ぶ。使ったら、また誰かにあげてよ。」

 すごく喜んでもらえた。

 すごく喜んでもらえたことが、ものすごくうれしかった。

 荷物が軽くなって、さらにうれしかった。

 なんかよく分からんが、こういうのって好きだ。

 きっと彼はラッキーだって思ったに違いない。

 ラッキーを運ぶことができたってことがうれしかった。

 ラッキーを運ばせてくれた彼にありがとうって思った。

 自己満足に浸って、バスに乗り込む。

 国境からフエに向かう予定のバスがビン付近の店の前で止まる。
 降りろとの指示。

 ん? やーな予感・・・。

 バスには、ハノイ、フエ、サイゴン行きの乗客がいる。

 どう考えても方向は逆だよな。

 挙手をして、多数決の結果、バスは北、つまりハノイへ向かうことに
なった。

 残念だが、南へ行く君らとはここでお別れだ。

 サヨウナラ。これがベトナムの民主主義だ。

 はぁ?

 意味がつかめず、抗議する間も与えず、バスは行ってしまった。

 フエ行きだというからバスに乗ったのに、途中で放り出されてしまっ
た。

マジか?

 しかもここは、バスステーションではなく、幹線道路沿いのレストラ
ンの前。

 西洋人5 人と日本人のカップルと8 人で・・・。

落ち込んでいる暇はない。

 よっしゃーー!!!

 ヒッチハイクだーーー!!!!!

 通り過ぎるトラック、バスに両手を振り、笑顔で炎天下の中、ヒッ
チ!!

 延々3時間、フエに行ってくれるバスをゲット!

 やっと移動できる。

過酷だなぁ、この移動。

 ビエンチャンでバスに乗ってから既に24 時間が経った。

 だんだんとフエに近づいてきた。

 ほっとしたのも束の間、ドライバーが一言。

 「降りろ」

 はぁ?なんで?

 「フエには行かない、ここで降りろ」

 第2弾じゃねぇーかよ。

再現フィルムでも観てるのか、こりゃこりゃ。

降りろばっかじゃん。

 猛烈に抗議したが、従順な西洋人のみなさんはすごすごとバスを降り
る。

 道路の標識をみるとここはフエの街から10 キロの地点。なんでまたこんなところで??

 そう思っていると、ブーンというマフラーの排気音とともに現れたバ
イク。

 暗闇に光るヘッドライトの数は8つ。

 こちらも8人。

 「お前さんら、どこに行くのか?乗せてやろうか?フエまで10ドル
だ。」

 はぁ?

 分かった!!

 こ・こいつらぁ〜みんなグルだ。

さっきバスの運転手が携帯電話で連絡してたのはこういうことだったんだ。

 1泊2ドルで過ごしてる旅人の移動に10ドルも払えない!

 だが周囲には何もなく、ここは彼らに頼るしかない。。。


 さすがアメリカに戦争で勝った国、ベトナムだぜ!!たくましい!!


 ホーチミン、万歳!!

 煮えくり返るハラワタを笑顔で冷却してネゴシエーション、フエまで
3ドルにして頂く。

 この場合は、勝ちか?負けか?

10ドルを3ドルにしてやったぜ!!ぐわはははは。。。

って既にボラれてるけど。

 まぁそんなことはいい。フエに行く。

 しかし、どこの宿も満室で前回泊まった宿のキッチンに泊めてもらう。

 眼から入るもん、耳から入るもん、鼻から入るもん・・・いったいど
こで感じてどこで考えてるんだ?

 この感情はどこから来るのか?どこへ行くのか?

 苦しいとか、楽しいとか、考えてるのはどこの誰だ?

 掴まずに、今はただこの感情に浸っていよう。

 くっそー!!マジで悔しいわ。くっそーーー!!ベトナム”””
 完全にやられた。

 旅慣れた気でおったけど、こういうのもあるんやなぁ。

 過ぎたことをウダウダ考えてもしゃーないけど、めっちゃ悔し
い・・・。

 あーくやしい、あーくやしい、あーくやしい。

 あー、マジで疲れた。

 30時間くらい掛かったんじゃねぇか?

 明日からどうしよう?

 どうもならんから、楽しいんやけどな。

 どうかしようとあれこれしてるのも、楽しいで。

 まぁ、どうなるか観てよう、自分のことを。

 安宿のしかもキッチンの床に寝る、

 一泊1ドル・・・。最低だ。

旅は続く、ベトナムには鍛えられる。