そうでないものがあって、そうであるものを感じることができる。  懲りもせず、飽きもせず、いろんなことを感じたい自分がいる。

14日

 6時半に宿の従業員に起こされる。

それもそう、仕方がない。

ここは宿泊室ではなく、宿のキッチンだから。

台所だけど、意外によく眠れた。

27時間の移動は想像以上に疲れていたんだなぁ。

荷物をまとめて、ビンジュオンホテルに行くと従業員のみんなは憶えてくれていた。

すっごくうれしい。

ニャチャン行のバスのチケットを取ろうとしたが、ホイアン行のチ
ケットが取れた。

次の町は、ホイアンだ。

14 時発のバスに乗る。

18 時、ホイアンに着く。

冷蔵庫、TV付で5 ドルのシングルルーム。

今日はかなり贅沢だが、ゆっくりと柔かいベッドで休める。

夕焼けの街の中、歩きまわり小さな商店で洗剤と水を買う。

店のおばさんは両手が異常に短い。

体は普通の大きさなのに両手は赤ちゃんほどにしかない。

洗剤はいくら?と訊くと 4000 Dという。

んじゃ、水はと訊くと 4000 Dという。

ベトナムの物価が分かってきたので、マジ?安くない?

なんか間違えてない?って思った。

隣にいた太った旦那が 8000 Dとふっかけてくる。

おばさんは、オヤジを一言で制し、4000 Dと言い直す。

こっちを直り、笑顔で 「リメンバー!」っていう。

憶えててよ!!って・・・。

価格を?私を?店を?なにを?

 とにかく Yesと応える。

その大通りをもっと歩くと、飲み屋がある。

すごくキレイな姉妹のいる飲み屋で生ビールを飲みながら、ベトナム
語を習う。

 宿に帰る道すがら、大通りの店で缶ビールを買おうと値段を尋ねる。

1 万ドンという。

ごめん、高すぎて買えないよ、そんなにふっかけてこなくても。。。

 首を横に振って、その店を去る。

 さらに歩いて、手の短いおばさんのいる店の前を通る。

 「ヘーイ!ハロー!!リメンバー!!!」

 背中に声が聴こえる。

Yes !! リメンバー!!

 ホテルに帰り、NHKを観る。

なんでか知らんが、おばさんのリメンバーがずっと耳に残ってる。

 リメンバー・・・。


 15 日

 疲れてるなんてちっとも思ってないのに、疲れてたのかもしれない。

 一旦、眼が覚めるが、また深い眠りに落ちる。
その繰り返しだ。

東証平均株価1 万1348 円、為替相場1 ドル= 109 円、宿のTVではN
HKのBSが流れる。

 日本にいるときにはどうでもいいニュースもここでは貴重な情報。

 天気がとてもいいので、シャワーを浴びて、髭剃りをする。

 あてもなく街を歩き廻る。

 明日の夕方のサイゴン行きのバスのチケットを確保する。

 ふと手にしたジーンズのケツ、破れかけている。

 4ヶ月、ほとんど洗わずに毎日、しかも昼夜問わず履いてたからなぁ
…。

 どうしようかと考えた末に、カーテン屋さんに入る。

通りに面したカーテン屋さんに入ると、3 人の若い女性が一心にミシン
を動かしている。

 「ちょっとすみません。このジーンズのお尻なんですが、破れる寸前なんです。とても大切な貴重な、唯一のズボンなので、なんとか修理してもらえませんか?」


 「あはははは、いいわよ。裏地の当て布は何色?どんな風に縫う?」


 当て布は水色、ジグザグ縫いをジェスチャーで指定する。

 「じゃ、すぐ始めるよ。脱いで。」

 1 ドルの料金ですぐに補修してくれた。

 笑顔のいいおねえさん達だった。ありがと。

 自転車をレンタルして、ホイアンの街を気ままに走る。

 ここは、かつて日本人街があったところ。

 ハンドルが動くにまかせて、郊外まで。

 昨日の「リメンバー」のおばさんの店でビールを買う。

 その後、江戸時代にこの地で亡くなった日本人のお墓があるらしい。
 そこに参ろうという気になる。

 さんざん探してみつかったのは、田んぼのなかにポツンと立つ墓石。
 ビールを供えて、手を合わせる。

こんなに遠い異国の地で果てた命、こんな田んぼの真ん中に。

 「写真は撮らないで」という心の声が聴こえたので、やめた。

 宿に帰って、TVを観るとインドネシア北朝鮮に拉致された曽我さん家族が再会したというニュースを報道していた。

 江戸時代にこの地で亡くなった彼は、家族に再会することなく異国で
なくなった。

 墓石は日本の方を向いているらしい。

 彼と自分を重ねてみた。

 彼も自分もジェンキンスさんも同じだ。

 そうでないものがあって、そうであるものを感じることができる。

 懲りもせず、飽きもせず、いろんなことを感じたい自分がいる。

ベトナムの古い町、ホイアンの日本人のお墓にて。