思いっきりひとりで何もしないということをするのも、思いっきりやってみる。  ハノイ 〜 フエ



宿の若きオーナーとその彼女、従業員1人とランチ。

 ベトナムではバイクにノーヘル2人乗りは合法だが、3人乗りはイケ
ないらしい。

こういう鷹揚さは大好きだ。

 従業員は遅れてくるとのことで、3人乗りになった。

本物かどうか分からないホンダの50ccは3人を乗せても前に進む。

 交差点の向こうに警官が見えると「ヤバい!降りろ!隠れろ!」なん
て最高にエキサイティング♪

大の大人が警察だ、隠れろ!なんて。

 ハノイ名物ブンチャーをみんなで食べる。

ものすごいたくさんの人がいる店。

昨日、自分で探し当てた店と同じ店だった。

けれども、一人で食べたときなんかよりも何十倍もおいしく感じた。

昨夜のお礼にと、食事は全部オーナーのおごりだった。

 カームオン♪

食べ終わって、一人で街を歩く。

白いハンチング帽を見つけて、2ドルで買う。

宿のチェックアウトは12 時だが、存分に使っていいよと言われたの
で、お言葉に甘える。

 シャワーを使い、昼寝もした。

 灼熱地獄に思えたこの部屋も慣れれば、自分の部屋のように思える。

 20 : 15

 ハノイを出る。暑いけど良い宿だった。

ありがとうございます。


エアコンバスだ。同じ宿に泊まっていたアメリカ人のじいさんもいる。

 確かラオスに行くって言ってたはずだが・・・。

ベトナム人は、嘘つきで貪欲で大嫌いだ!!」と言い放っていた。

 彼の目に映る世界はどんなんだろう

 ベトナムでどんな人に出会い、どんな出来事があったんだろう?

 バスは、すぐに出発するかと思いきや、なかなか動き出さない。

 そのうちにうとうととしてしまう。

 チケットを確認しに来た男が尋ねる。

 「お前はどこまで行くのか?」

 半分眠った頭はすぐには再起動しない。

こっちが訊きたい。

「え?どこに行くのか?ここはどこだ?目的地、ハノイ。いや、それは
ここか?」

チンプンカンプンな答えをしてしまう。

 いったい、この人はこれからどこに行って誰に会うのだろう?


 7 月1 日

 朝、目が覚めてもまだバスは走り続けている。

 どんな環境においても熟睡できる自分が大好きだ。

 バスの中の人が一気に少なくなっているのはなぜだろうか?

 右前方にはラオスに向かうはずのおっさんがまだ座っている。

 左の窓から朝日が見える。南へ向かってるんだな。

 まぁ、どこに着いてもいいし、目的地には着ける自信がある。

 なぜなら着いたところが目的地になるから。

 朝食にベトナムコーヒーと焼きそば。

 13 時、フエという街に着く。

適当に宿を取る。一泊5 ドル。

 風通しもよくお湯も出る。

 近くに川が流れ、夕日がきれい。

 公園で子供が遊んでいる。

 デジカメでみんなで遊ぶ。

 9人兄弟、川を渡す船頭さんの子供たち。

 過ごしやすそうな街だ。



 7月2日

 ベトナムの古都、フエ。

 宿の近くの屋台のマンゴーシェイクがうまい。

ここの宿はお湯も良く出るし、清潔でいいが5ドルは少し高い。

 近所の宿を当たってみる。

 向かいのビンジュオンという宿に入る。

 レセプションの壁になぜか錦帯橋の大きなポスターが貼ってある。

これだけでもう決まりだ。ちょうど、桜が満開の季節のもっとも美しい錦帯橋

 なんでまたここに山口県のポスターが?

 ビンジュオンに泊まってる日本人2人と会い、昼ごはんを一緒に食べ
る。

 昼寝した後、川沿いを散歩していると昨日の船頭の子供たちが待って
いる。

 カタコトの英語と身振り手振りで話す。

おたがいヒマなのだ。

 学校帰りの学生、民族衣装アオザイを着た若い女の子、アイスクリー
ム売り・・・いろんな人が目の前を通り過ぎてゆく夕暮れ。

 地元の大学生が、話しかけてくる。

 「ベトナムはどう?日本はどんなところ?フエは好き?この国の食べ物は好き?日本人は何を食べるの?どこに泊まってるの?」

 一緒に写真を撮ろうといわれる。

 夕日を観ようと散歩してが、一人にはなれない。

 けど、楽しい時間。




 3日

 朝一番で宿を移る。

 ビンジュオンホテルには、日本語の本がたくさんある。

ロビーにはTVもあり、NHKBSまで見れる。

日本人もたくさんいて、みんなで夕飯を食べに行こうってことになる。

 路上で営業してるぶっかけメシ屋。

 地べたに座り、日本人7人で。

 宿に帰り、京都から来た元銀行員と一緒に遊ぶ。

日本から持ってきたカレイドスコープ、チベットのシンギングボウル、サパの口琴を使って遊ぶ。

 
 入ってくるものがあって、出てゆくものがあって、頭の中でいろんな
考えが巡る。

 考えてるって自分も見つける。

 石田衣良の「池袋ウェストゲートパーク」の本もあげた。

 自分だと思ってるなにかは、勝手に動き回ってる。

 4日

 朝9時、涼しいうちに外に出る。

 橋を渡って向こう岸へ行く。

 王宮の周囲を一周して、古い町並みの中を歩く。

 5日

 京都からきたヤスくんに声を掛けられ、王宮を歩こうということにな
る。

宿の玄関で出会った日本人も合流して大所帯になった。

 川向こうのマーケットでみんなで春巻きを食べる。

 散歩して、ベトナムのデザート che の屋台を見つけた。

 ナオちゃん、ちゅらさん、リュージ、ヤス、シンゴ・・・夜は部屋に
集合。

 口琴、シンギングボウルが部屋に響く。

 音が壁にぶつかって返ってくるのが見える。

 みんな思った通りのあほなやつらだった。すげー。

 6日

 リュージと歩いてマーケットに行く。

 ベトナム春巻きで朝飯。

ネットカフェに行くが、想像を絶する通信速度の遅さで何もできない。

HOTMAILの画面さえ開けない。

ちょうど、ナオちゃんとちゅらさんが入ってくる。昨夜の口琴とシン
ギングボウルの話をする。

 宿のロビーに座ってると、ハノイに一年住んでいるという日本人女性
がやってきて、話す。

そこへヤス、樹里さんもやってくる。

 これまでの旅、これからの旅のことをみんなで話す。

 旅をしながら、みんな自分のネタを持ってる。

 こんなことがあったよ、ここがよかったよ、あの宿いいよ、あ!そこ
私も行ったよ、え?マジ?今度どこ行くの?んじゃ、一緒に行く?

 旅をしながら、握手をする方法を探してる。

 どうやったら人とつながるのか?

握手する手をたくさん持とうとしてるのかもしれないなぁって思った。

 ひとり部屋に戻ると、リュウジとシンゴが来る。

シングルの部屋を取って良かった。

野郎のたまり場になる。

 夕飯を食べて、ビールを飲む。

 『西へ真実を求めて旅に出る』…なんてことは全くない。

夕暮れ時、古都フエに沈む美しい夕日も観に行く…こともしないで部
屋でマンガを読む。

 『暴力的な映画は観る価値がない』
 『アルコール、ドラッグは魂の毒だ』
 『肉を食う人はスピリチュアルでない』
 『何事にも意味があるのでプラスに考えなければいけない』
 『マンガは低俗である』

 いろんな『善なること』が喋りかけてくる。

 本当かもしれないし、そうでもないかもしれん。

アドバイス、ありがとう。忠告は分かった。

けれど、今日は放っておいてくれ。

 とにかく、今はベトナムの夕日にも、部屋の外の旅仲間にも背を向け
て好きなだけマンガを読みたいんだ。

ベッドの上でゴロゴロしている怠惰な今が愛しくて仕方がなかった。

天井でブンブンと音を立てて回るファンの風は、エアコンの冷気より
も心地よく、一人でいられることが最大の贅沢のように思えた。

 『沈黙の艦隊』を読み続けている。

 「牢獄の庭を歩き周る自由よりも荒波をどこまでも泳ぐ自由を」
 頭に海江田艦長の言葉が響く。


 その思考の中で、自分を枠に入れ込むクセを一つ見つけた。

 見つけたときにすでにそこから出ていた。

 みんなの中、集団の中にいるときに、自分の役割、位置、立場を測ろ
うとする。

 器用に人の中で立ち回ろうとする。

 今はどうするのがいいのか?この中で自分はどんな人なのか?
 いらんことを考えるのがクセだ。


たくさんの人に囲まれれば、また一人になりたくなる。

いつもの癖だ。

思いっきりひとりで何もしないということをするのも、思いっきりやってみる。