世界中にどこにでもあるものを作り、世界に一つだけのものを壊してゆく。精神世界の物質化が始まる.カンボジアへ


7月19日

 こんなにも眠れるのかというほど眠った。

熟睡というレベルではない。

 すげぇ、眠った。

だがしかし、この宿、ホットシャワーは大嘘で水しか出ないし、ベッ
ドにもトイレにも虫くんたちがたくさん。

一泊4ドルも払って、これはないんじゃない?

今日は宿移りだ。

この街、サイゴンにはネオンサインがいっぱい。

SUSHI SHELATON BAR などなど。

 コンビニらしきものもあるし、街角に立ってるおねえちゃんたちもい
る。

 タイのカオサンに似た混沌を感じる。

 ベトナムサイゴンのファングーラオ通り。

 日本語もあちこちで聴こえ、日本人旅行者らしき姿も見かける。

 今日はカンボジア大使館に行く。

 サイゴンは今、朝の5時。

 宿の屋上の石のベンチに腰を掛け、息をひとつ。

 鉢植えの白い小さな花がポツリと落ちた。

 タイル貼りの水色の床を蟻が這う。

 初めて聴く声の鳥たちが夜明けの空を飛び交う。

詩人ならば、ここできっと今を詠めるのだろうと思い、空を見上げる。




 7時15分 カンボジア領事館近くの公園。

 ファングーラオから地図を頼りに歩いてここまでやってきた。

 大都会サイゴン

 有名なブランドの店やファーストフードの看板を見た。

 世界中、どこにでもあるロゴや色使いの看板を見た。

世界中にどこにでもあるものを作り、世界に一つだけのものを壊してゆく。

資本主義とはそんなものなのだろう。

しかしながら、壊してしまってからしか気が付くことができない。

だから、年寄りは大切にしなければいけないのだろう。

だが、未だに資本主義にべったりの半端な年寄りは早めに老人ホームにぶち込むしかない。社会悪だ。



カオスに満ちたホーチミンの町、安心感と例えようのない淋しさが混ざったような感情が湧いてきた。

 公園ではウォーキング、ジョギング、ダンベル体操をする人々。

 衣食住が満ち足りると、関心は今度は自分に向かってくる。

 体を鍛えたり、心をビジネスにしたり・・・。

 どこも同じや。

同じ国のちょっと行った北部の山ん中には、サパ族とかもおるんやで。

きっと今に、ネットワークビジネスとかスピリチュアルなセミナーな
んかも流行ったりするんや。

精神世界の物質化が始まるよ、気を付けてね。

なぁーんもない山の中の慎ましい生活のやつらの方がよっぽど精神的
や。

欲にまみれて精神世界を求めることが、「それ」から最も遠いなぁ。

 ・・・って、日本での自分を見つけた。

求めることが最も遠い。


7時半の業務開始とともに領事館でカンボジアビザの申請をする。


帰ろうとした建物の出口で、腕時計を拾った。

 RADO と刻印されてて、金ピカですんげー高そうだった。

やべ、これって売ればすんげーいい旅ができんじゃん!って悪いカツ
オの誘惑もあったが、領事館の窓口に持ってった。

 職員のものらしく、すんげー驚いて喜んでた。

誘惑に勝った俺はエラいね。

そう勝手に自己満足して、宿は7ドルのエアコン付の部屋をご褒美に
した。

おまけに日本料理店「どらえもん」に行って、コロッケ定食を食べた。

 久々の贅沢!!

 エライ!偉いぞ!俺!!

「どらえもん」って店においてあるマンガを延々と読む。



 20日

 早くから眼が覚め、なにをするともなく、ぼんやりとすごす。

もう一度シャワーを浴びて、チェックアウトする。

宿を出て、大通りファングーラオに出ると、早朝っていうのにたくさんのベトナム人が集まってくる。

 タクシー?チープホテル?モーターバイク?

 この国にいた一ヶ月、何万回くらい聞いた言葉か?

「今からプノンペンに行くんだ。だからタクシーもホテルも必要ないん
だ」

 そう言ってもしつこく付いて来る3人。

なんでこんなにも物分りが悪いのかと呆れていると前後右を囲まれた。

彼らの目当てはホテルやタクシーの客引きじゃなかった。

前の男に気を取られている隙に後ろから横から一斉に荷物を引っ張り、
バッグの中身をさぐられた。

 「!!!」

叫ぶと一斉に逃げていったが、ファスナーは開けられてた。

 中身はたぶん無事。

 
ベトナム・・・さすがだ!最後の日、最後の瞬間までやるねぇ〜!!

 バスに乗り、カンボジアに向かう。

 国境で闇両替屋のおばちゃんと、1ドルをチェンジ。

 レートでは4000リエルだと言ってたのに、数えると1000リエ
ルしかない。

 ちょっと待ってよ、1000リエルしかないよ!って云うと、確かに
4000リエルを渡したという、抜群の笑顔で。

 あははははははは。

 あげるよ、小さいことだ。

 偉大だ。

 かなり偉大だ。

 スリ集団も、インチキ両替も、グレートだ。

 すげえ、偉大だ。

 脱帽です。

みんな自分の世界の中で生きてる。泥棒も売春婦も麻薬の売人も王様
天皇陛下も・・・。

 みんなそれぞれ毎日があって、好きな人がいて、ご飯食べて、うんこ
して・・・。

 すげえや。

 ぼったくり、ウソ、ダブルプライス・・・いろんなことがあった。

けど、自分だって・・・日本に暮らしてること自体がどっかの国の知
らない人たちから、ぼったくりしてんだ。

日本でやってた住宅営業の仕事なんて、今思い出せば、詐欺じゃねぇ
か。

 スリとか詐欺とか・・・やっぱ、すげえ凹むし、良くない。

でも、今はそれを正そうと剣を構える気力もない。

だから、笑った。

一旦集めたパスポートにスタンプを押し、バスの前で点呼。

信じられないくらいにいい加減な、そして速い、うれしい方式で越境。

 何カ国目か?カンボジアに入国する。


 13時、プノンペンのキャピトルホテルって宿に入る。

 早速、大麻の売人の皆様方が声を掛けてくださる。

 要りませんってば。そんな感じに見えるか??!!

 街を歩いて、大韓航空のオフィスを見つける。

 デンパサールへ何としても飛ばなきゃ。

 その前に、アンコールワットだ。シェムリアップからバリに飛ぶ。

旅は続く。