やっちゃいましたよ、旦那。バブルってやつがはじけてしまいましたぜ。 マレーシア、マラッカ



17日

 どこかの部屋の目覚まし時計が鳴り続けている。

壁一枚がベニア作り、しかも天井に接する部分は開放されているこの部屋。

カーテンで仕切ってあるのとあまり変らない遮音性能だ。

延々と鳴り続ける電子音を背にして、宿を出る。

パキスタンビザを取りに行く。

ここシンガポールには、インド、ミャンマーバングラデシュの大使
館、領事館があるので、一応行ってみよーっと。

 街を歩く。

 バックパッカーの間では、不人気なこの国。

整然としていて、物価は日本並み。

たくさんの日本人観光客。

不思議とこの国が嫌いではない。

コントロールされた美しさだが、たしかにキレイだ。

 ミャンマー大使館は意外とすんなりと見つかった。

申請も手持ちの証明写真を使って簡単にできた。

 申請の項目に、父親の名前、目の色、髪の毛の色なんてのがあって、
びっくりした。

 ミャンマー国内での住所って項目は、困った。

仕方がないから、隣で申請書を書いていたおじさんの住所を盗み見て、書き写した。

ミャンマービザは即日交付だから、映画でも観て時間をつぶそう。

 14 時30 分に再び大使館に行き、無事にビザを受け取る。

 2日間、ビザ取りのためによく歩いた。

 シンガポール観光局のツーリストインフォメーションで、バングラ
使館とインド大使館に電話してもらう。

バングラビザはここでは取得不可能、インドビザは5日間掛かるらしい。

 それじゃバンコクで取った方が安くつく。

宿に戻って水シャワーを浴びる。

マレーシアJB行きのバスの出発地を尋ねる。

 日本の家族に電話するが、留守電になった。




 18 日

 7 時30 分 ペオニーマンションの9 階8 号室を出る。

おそらくシンガポールでイチバン安い部屋だろう。

部屋というよりも広めの更衣室といった方がしっくりくる。

 今度この国に来るときには、もうこの建物はないだろうなぁと思うと
感慨深いものがこみ上げてきたというのはウソで、重い荷物を背負って
さっさと出た。

 Queen ST のバスターミナルからジョホール行きのバスに乗る。

シンガポールに3 泊もしちゃった。

いい国だ。多民族が融和したような、してないような感じで。

 スターウォーズに出てくるジャバザハットの酒場の雰囲気をリークワ
ンユーが思いっきり制御したイメージ。

強権じゃねぇーとやってらんねぇんだろうな。

 寸分の隙もなく整備された街だが、公衆トイレの壁に為政者に対する
不満が落書きとしてぶちまけられているのを見て、なんだか安心した。

 シンガポールのイミグレを難なく通過。

マレーシアの国境の街、ジョホールバルへ。

 ピータンのお粥を食べ、この街を出る。

バスターミナルからマラッカ行きのバスに乗る。

座った途端に動き始める。

 エアコンの効いた快適なバスで郊外のターミナルへ。

そこでローカルバスに乗り換えて市内へ入る。

 この街も12年ぶりだ。すっかり変ってしまっている。





カンチルという名前の小さなゲストハウスを見つけ、そこに荷物を降ろす。

前に来た時にお世話になったトラベラーズロッジは見つからなかった。


ザビエル教会の前の店でナシゴレンを食べる。

 海まで歩き、腰を下ろす。かつては何もなく、資材置き場のようなと
ころだったのに、今は一面に建物がある。

しかし、ゴーストタウン化していて、そこら中に TO LET FOR RENT
 と張り紙がしてある。

やっちゃいましたよ、旦那。バブルってやつがはじけてしまいました
ぜ。

 風景がそんな感じで語りかけてくる。

 シンガポールから来ると、物価も安く、うす汚れた町並みのマレーシアだってアジアでは優等生だ。

むしろ、そのうす汚れ感が個性であり、外国人から見るとその国らしさのシンボル。

それを徹底的に失くしたのがシンガポールで、そのシンガポールがかつて見本としたのが日本なのだろう。

タイだって、カンボジアベトナムからみると王様が治める立派な国。

どこから見るかによって見方は変わるが、旅行者からはその国々の個性に親近感を憶える。

そりゃそうだ、でなければどこに行っても同じだ。


 街に掛かる大きな橋の上に歩いて行き、夕陽を待つ。

 ここは沢木耕太郎が世界一と云った夕陽の街。

残念ながら今日は曇っててキレイに見えない。



 歩いて帰るときに、大きな荷物を持った日本人に出会う。彼も夕陽を
見に行く途中だという。

 「あぁ、今日はもう沈んだよ。しかも曇っててそんなにキレイじゃな
い。」

 エイイチロウっていうらしい。

我が宿、カンチルを紹介した。

一緒に夕飯を食べ、屋台でサテーをつまむ。

 もういらないので、地球の歩き方インドネシアをあげた。

伊集院静の「女神の日曜日」ってエッセイ集と何か交換しない?っていうと、沢木耕太郎の「深夜特急」が舞い込んできた。

 ここに来て、沢木ですかぁ〜。

マレーシア一日目終了。

久々に日本人と話した気がする。

明日は夕陽が見れるとうれしいなぁ。