ゆっくりと流れる時間。  朝日を眺める余裕は幸せに比例する。






5日

吉本ばななの『白河夜船』を読むうちに眠ってしまっていた。

なんかの間違いで午前0時に目覚ましが鳴る。

丁度いい、シャワーを浴びて汗を流す。

 扇風機の涼しい風にあたりながら、藤沢周平を読む。

 旅先ではホントに日本語が恋しくなる。

 テレビもラジオもなく、本だけが長い夜につきあってくれる。

ロビナの宿にタゴールの詩集を置き、サルトルカミュを連れてきた。

 午前8時、奥さんがダイビングに出掛けた。

 具合は良くなったみたい、笑顔でいってきまーすという。

 今、まさに朽ち果てんとする歴史的遺産。

果てる前に手を加え、後世に残すのがいいのか?

作られたときそのままで朽ちゆくのを見守るのが歴史の証言者なのか?

そんなことを考えながら、まぁどっちでもええわぁと遠くで波の音が
聴こえる。

 明日のアメッド村への車の手配をする。

 奥さんが海に潜ってる間に、2人の子供としりとりを延々とする。

 もぐら、らっきょう、うり、りんご・・・。

 ヤシの木の下でサルトルを読む。

 ナンノコトヤラ、サッパリワカラン。

 子供は波打ち際で石を投げて遊び始めた。

 真っ黒に日焼けしている。

 ゴーグルを借りて、海の中を覗いてみた。

ここだったらシュノーケリングでも十分イケそうな気がする。

 時間とお金と幸せの話をして、部屋で7並べをして寝る。






 6日

日付が変る頃に目が醒める。

床頭台の上に子供の絵日記が置いてある。

子供たちは大きくなったときに、今回の旅のことを憶えているだろう
か?

こんなフラフラしてると、「お仕事は?」と尋ねられるのが以前はすご
くイヤだった。

今はなぜか愉快ですらある。

「何人兄弟?」という質問には2人と答えたり、6人と答えたりする、

同様に仕事もいろんな答え方ができて、相手の反応を楽しむことができ
る。

 その人と話しながら、新たな発見をする。

自分がどう見られたいか、どう見せたいかという点で常に意識の中で
動き回ってんだ。

 人と会うとき、常に動いてる。全部自分で規定して作ってる。

虚像だな。

 主観を離れた客観はねぇな。

 子供が波打ち際で遊んでいる。

 小石を拾って、海に投げ込む。

 放っておけば、波にさらわれる小石を投げ込む子供。

 小石の運命は、はて、自然か?不自然か?

 6時半に海辺に出て、ひとり朝日を観る。

 どんなに高性能なカメラでも、どんなに高価なアンプやスピーカーで
も、この絵と音は再現できない。

 今、ここを楽しむ。

 水平線、波、光、風。

 シュノーケルで海に潜る。

 青、黒、黄色、縞模様・・・魚が空を飛ぶように泳ぐ。

 頭上から朝日が注ぎ、青が深い。

 魚と一緒に空を飛ぶ。

 午前0時、エクストラマットの上。

残りのワインを飲みながら、『地球の歩き方 インドネシア』を読む。

 ジョグジャカルタに行き、ボロブドゥール遺跡へ向かおうか。

鉄道でジャカルタへ。

そこからシンガポールへ行こうかな・・・。

 インドネシアビザは24日まで有効。

 6時頃、目が醒めて、灰谷健次郎の『太陽の子』を読む。

ふうちゃんの沖縄亭、いいなぁ。学生の頃、バイトしてたおでん屋さ
んを思い出す。

 日本のみんなは元気かなぁ。

 息子が起きてきて、肩を叩く。

娘は疲れてるのか、まだ寝てる。

 今日はゆっくりしよう。

 プールに足をつけたまんま、本を読む。

二人の子供が水遊びをしている。

バリの東の端の小さな漁港の近く、夕暮れ時に『太陽の子』を読み終
えた。

 良い本だと思った。

 嫁さんと子供は浜へ散歩に出掛けたようだ。

ホントに幸せやなぁ。

この人はいったいこれからどうなるんやろうか?

楽しみにみていよう。

 風が涼しくなってきた。

洗濯物を畳もう。

 日が落ちてきたので、みんなを探しに外へ出る。

浜辺に子供の一団がいる。

その中に見覚えのある水着が。

うちの子もいるじゃん。

 現地の物売りの子と大笑いしながら、砂山を作ってる。

 傍らで笑う嫁さん。

 言葉は通じなくても、遊びは同じ。

物売りの子供たちは商売道具、商品を投げ出して、遊びに興ずる。

インドネシア語で、テリマカシ と言うと、 アリガト と言われた。

 8日

 中国人民が作った蚊取り線香「武士」やっと活躍の場だ。

 インドネシアワインの瓶を台にして、カンボジアライターで点火。

 バリ島の蚊よ、思い知れ、中国人民のチカラを!

 ブーン。

 何事もないように、蚊取り線香の煙の側を飛ぶバリの蚊。。。

 信じられん。

 痒い。

 虫刺されには、やっぱり日本のムヒですな。さすがに効く。

 そんなこんなで今日も朝5時起き。浜に出て、朝日を拝む。眩しく美
しい太陽。

 日本の太陽と同じ太陽。けれど、日本にいるときに、いったい何度の
夕日や朝日を観てきただろう。

 ゆっくりと流れる時間。

 朝日を眺める余裕は幸せに比例する。

 10時の約束のドライバーが9時半には迎えに来てくれる。

朝食のとき、昨日の子供たちがまた訪ねてきてくれた。名前も覚えてくれていて、朝から笑顔。

 もっとうれしかったのは、宿を出るとき、車が見えなくなるまで見
送ってくれたこと。

ありがとう。

昼すぎ、次の街、サヌールに着く。

 家族で過ごす時間もあとわずか。

伊集院静のエッセイを読む。

腑抜けになる。

旅は続く。