システム・エラーだ、ダメだこりゃ。
73歳の2本の杖を持った男は、その障害に見合わない大きなボストンバックを2つと手荷物用の小さなバック1つを運ぼうとしている。
何がそんな大きな荷物になるのかは知る由もない。
「荷物の大きさは旅の不安の大きさに比例する」というが、この老人には当てはまらない。
世界を旅してきた男なのだが、今回の旅の荷物は大きい。
新山口駅まで車で送ってくれとの電話の理由はその荷物の多さからだろうな。
午前6時過ぎの新幹線に乗るには余裕がある時間に新山口駅に着いた。
送迎の駐車場、15分まで無料で、それから先は130円ね、駐車場。
駐車場でハイ、サイナラもできないので改札まで荷物を持って行った。
おそらく一応は健常者の俺が両手に持っても結構な重さ。
これを杖をついて歩けるのか?
カツンカツンと杖の音をさせながら、彼が2階の改札に来るより先にJRのお姉さんに、「障がい者が大きな荷物を運ぼうとしているのでヘルプをお願いできますか?」と頼んだ。
この駅では手を貸せるが到着先の駅ではどのように対応できるか分からないとか云々・・・。
「はい、それで結構です」と勝手に言わせてもらう。
これから先、旅だからそりゃそれしかないもんねぇ。
JRの制服のお姉さんは、いろんなところに電話したり、他の職員と相談したり。
あぁ、朝の忙しいところに面倒なのを押し付けちゃったなぁと申し訳なく思った。
ホントにごめんなさいねぇ〜。。。
おそらく、何号車に誘導するとかああだこうだ考えてくれてるんだろうなぁ。
いやぁ、日本の安全安心システムは恐れ入りますなぁ。
そうこうしてると、別のお姉さんが「車椅子に乗って頂いて・・・」誘導してくださると、「車椅子を用意しますので少々お待ちを・・・」
あぁ、相当面倒臭いことになってしもうた。それよりも発車時刻が迫ってるし。
これなら入場券を買って改札を通らせてもらって、自分らで荷物をホームまで運んだ方が簡単で話が早い。
「すみません、やっぱりこちらでなんとかします。」
ボストン2つはかなりの重さ、これから先の彼の旅にはかなり重いがそれ相応の想いがこの荷物にはあるのだ。
荷物を抱えて、改札を通り、エスカレーターでホームに向かう。
ご丁寧に男性JR職員さんが一人後ろから付いてきてくださる。
VIPか?
「エレベーターをお使いください!!」
もうエスカレーターに乗ってもうたわぃ。
「これが日本の危機管理能力だ。教育によって咄嗟の対応が・・・」
杖の男の愚痴は聞いてらんない。
新幹線3号車の中は人も疎らで座席に荷物を置いても大丈夫そうだ。
「んじゃ、いい旅を」握手をして任務完了。
後は、旅の空の下、会う人会う人に助けてもらってくださいな。
神の思し召しを・・・。
面倒がって入場券をケチったばっかりに、3人ものJRのお姉さんやお兄さんに、朝の忙しい時間にやらんでもええイレギュラーなことをさせてしもうて、ごめんなさいね。
けれども、3人が動くんでなく、誰か一人がフリーになって運んでくれりゃ済む話なんやけど、社内規定やら連絡やらマニュアルやらシフトやら何やかんやが大変なんだろうなと思った。
急いで駐車場に戻って、出口に向かったけど、15分を少し過ぎていて、130円も払う羽目になりましたとさ。
システム・エラーだ、ダメだこりゃ。
あ、入場券に「旅客車内に立ち入ることはできません」と書いてある。
すみません、荷物運びなんで許してやぁ。
あ、入場券、持って帰ってもうた。
チャンチャン。